「あ〜つ〜い〜」

6月半ばの日曜日の午後。

梅雨入りに伴い、折角の休日だって言うのに窓の外は雨。

地球温暖化の影響で年々気温は上昇中。

それにプラスして、雨による湿気で不快指数も向上中。

正に気分は文字通りのブルー。

「せめて晴れて、風があれば・・・暑くてもなんとか・・・」

そんなことを言ったって、梅雨前線が早々に立ち去ってくれるわけでもない。

「健全な女子中学生が、休日を部屋に缶詰とは・・・」

窓の外の黒っぽい灰色の雲とそれが降らす雨水を睨む。

まあ、睨んだ位であの分厚い雲から日が射すとは思えないが。

「こういう日の過ごし方は、やっぱりアレしかないでしょう!」

独りで部屋で湿気っているのは性に合わない。

・・・ん?

ひとり・・・?

「そーいや、綾那は何処行ったんだろう?」

ルームメイトを最後に見たのは、昼食を摂ったときだったか。

なんて、出掛ける準備をしながら考える。

「ま、どうせはやてちゃんと一緒に入るんだろうケド」

この考えは多分、間違ってないだろう。

扉を開けて通路にでると、じめじめとした空気が纏わり付く。

「うお!気分は正に微生物ってか?」

意味不明なことを呟いてしまった。

余りの暑さと湿気で、脳に異常をきたしたらしい。

もしかしたら、カビが生えているかもしれない。

そんな恐ろしい考えを振り払い、気持ち悪さを堪えつつ、一歩ずつ目的地へと足を運ぶ。

彼女は部屋に居るだろうか。

居なかったら・・・どうしよう。

「っと、危ない」

考え事をしていたせいで、危うく目的地を通り過ぎるところだった。

一つ咳払いをして、扉をノック。

――コンコン

「はい、どうぞ」

居たようだ。

「久我順、入りまーす!」

そう言いつつ、扉を開けるとそこには・・・。

「順、丁度いいところに」

「・・・何やってるの?」

「見て解からない?」

いや、解かりますけども・・・。

あたしが訊きたいのは、どうしてこんなことをしているのかって事で・・・。

「・・・折り紙折ってます」

そう、部屋の中では、夕歩と増田ちゃんがテーブルで折り紙を折っていたのだった。

「正確には、折鶴ね」

「なんでまた、こんなことを・・・」

つい、口を付いて出た質問。

「無道さんの刃友の子が使うんだって。何でも最低千羽は欲しいらしいの」

それに増田ちゃんが答えてくれた。

そっか、はやてちゃんが・・・。

しかし、何で千羽も?

千羽鶴っていったら、平和の象徴?

でも、まだ6月だよね?

今から急いで折る必要なくない?

「ちびっ子のやることを一々気にしてたら、疲れるよ」

ご尤もです、夕歩さん。

・・・ということは、まさか。

綾那もこれを手伝わされているということか。

「順、手伝って」

「え?」

「私たちだけじゃ、流石にきついものがあるから」

夕歩と増田ちゃんの2人に頼まれると、流石のあたしも断りきれない。

「あ、うん。いいよ」

どうせやる事なかったんだし。

こうしてあたしを交えて3人で、折鶴を折ることに。




約3時間後。

黙々と折り続けていれば、手元の折り紙もそこを尽きた。

女子中学生3人が、無言で折鶴折る姿って、異常だろうな・・・。

「これで何羽いるの?」

「えっとね。・・・二百くらいかな」

カラフルな鶴たちがテーブルの上に整列している。

正直言うと、少し恐い。

「じゃ、私これを渡してくるね」

そう言って紙袋に鶴たちを入れていくと、増田ちゃんは部屋から出て行った。

「つ〜。肩凝った」

3時間も同じ体勢でいたせいか、体中が痛い。

「ありがとう、順」

伸びをしていると、背後から夕歩の声が聞こえた。

「いいよ、このくらい。どうせヒマしてたし」

結局のところ、部屋に缶詰状態だったわけだけど、ひとりじゃないだけ幾分か気が紛れたかな。

「順・・・」

「ん?っえ!?」

呼ばれて振り向こうとしたら、視線が一気に傾いた。

なんでテーブルの脚が横向きに見えるんだろう。

そして、頭の下に感じるこの柔らかい感触は・・・?

「え、・・・えええ?」

「休憩しよ」

混乱する頭を整理しようと必死になっていると、上から声がかかる。

・・・何故、上から?

「っ!」

「順?」

唐突に理解した。

突然視界が傾いたのも、テーブルの脚が横向きになっているのも、今あたしが横向きに寝ているためで。

頭の下にある柔らかい感触は夕歩の足で・・・。

つまりあたしは、夕歩に膝枕されちゃっているわけで・・・。

「ゆ、夕歩!」

「いいから」

いやいやいや、いいとかそういう問題じゃないくて!

起き上がろうとしたら、頭を押さえつけられた。

「手伝わせちゃったし、折角の休みを潰しちゃったわけだし」

申し訳無さそうな夕歩の声。

・・・ああ、そうか。

夕歩はあたしが無理矢理手伝わされたと思ったわけだね。

身体を45度回転させて仰向けになる。

「そんなこと、全然気にしてないよ。夕歩と一緒なんだから」

「順・・・」

手を伸ばせば、夕歩に触れることの出来る距離にいる。

それは、何て幸せなことなんだろう。

「夕歩」

「何?」

「もう少しこのままでも、いいかな?」

「いいよ」

笑顔を見せてくれる君。

君と居れるのなら、夏の暑さも苦にならない。

確認する必要もないくらい、君の存在をここに感じられる。

こういう休日の過ごし方も、偶にはいいもんだね。

偶には、だけど。



















甘い順夕ってリクで書いて頂きました!!サイゴンの期待以上に甘くて、砂吐くかと思いました;;
四季さまありがとうございました!!